タイムライン

9割は映画、たまにアニメや本の感想。

20180827 『シュワルツェネッガー主義』

f:id:strawdog48:20190113143158j:plain



最近読んだ面白い本


シュワルツェネッガー主義』
(てらさわホーク著 洋泉社 2018)


みんな大好き往年の筋肉スター、シュワちゃんことアーノルドシュワルツェネッガーの栄枯盛衰を克明に綴った本です。
シュワファンの方はもちろんのこと、木曜洋画劇場とか肉密度1000%とか玄田哲章とかヴァンダミングアクションとかにピンとくるオッさんの方々も須く読みましょう。

 

オーストリア生まれの貧乏育ち、訛りが強くてデビュー作のセリフはほとんど吹きかえられたというボディビルダーが、ハリウッドで蛮勇の王者となり、殺人マシンとなり、宇宙人と戦い、コメディ俳優へと路線転換し、やがて政治に活路を見出すも、隠し子の発覚で全てを失います。そして今再び、シュワルツェネッガーは銀幕の世界で慎ましく生きているのです。

 

その波乱万丈の人生を追った本書は、ページをめくる手が止まらなくなるほど面白いのですが、問題作『ラスト・アクション・ヒーロー』の記録的な失敗を描く後半から俄然、この本の面白さに拍車がかかります。


『トゥルー・ライズ』や『ターミネーター2』を批判的に書いているあたり、著者が初期の作品に大変な愛着があることは間違いなく、“オレが好きだったシュワ”が間違った道に進む様を情感たっぷりに綴ります。


いちファンとして全てを見届けた著者が記録するのは“シュワルツェネッガーの滅びの美学“であり、何かが確実に終局へと向かっていくやるせなさと無力感、そして散り際の美しさと儚さが文章から漂ってくるのです。


運命を変えて希望ある未来を描いた『ターミネーター2』から一転して、”結局は避けられなかった破滅“を描いた『ターミネーター3』の公開当時の失望感…なんだかあの頃を思い出すのです。今となっては、それなりに評価してますけど。


いやまぁ、ぶっちゃけ時代の寵児が無様に転がり落ちる様を見るのは失笑を禁じ得ないのですけど(ゲス過ぎる)、リアルタイムで『シックス・デイ』や『エンド・オブ・デイズ』のような駄作を観てきた身としては、単にスターの失墜だけでなく、1つの時代の終焉を見るようで感慨深いのです。


シュワだけでなくスタローンもヴァンダムもラングレンも、遍く全ての肉体派ハリウッドスターは90年代の終わりに低迷を迎えました。


ガチムチの筋肉ダルマが直立不動でマシンガンをぶっ放すより、『マトリックス』のように細マッチョが二丁拳銃とカンフーでケレン味たっぷりのアクションを披露した方が観客は燃えたのです。そしてハリウッドだけでなく全世界で『マトリックス』の亜種が次々と生み出されたのです。


あの頃の自分を思い出しながら本書を読んでようやく気づかされたのです。スターとしての栄光を築き上げながら、シュワルツェネッガー自身は
「筋肉スターもいつか大衆に飽きられる」と危惧していたことに。事実、オレ自身も当時の多くの映画ファンも、シュワ映画に飽きていたわけですから。

 

イメージ転換を図るべく挑んだコメディ路線や、バイオレンスを排して子供も見られる非暴力のアクションにも挑戦したシュワルツェネッガー。そのいくつかは成功し、その成功が慢心と暴走を引き起こし、決定的な失敗をもたらしたのです。


故に本書はシュワルツェネッガーの『偉大なる挑戦と失敗』を克明に記録したドキュメントであり、全ての読者は彼の失敗から多くを学ぶことができるでしょう。単に読み物としても十分に面白いです。


まぁ、シュワルツェネッガー自身は3億ドル以上も資産があるらしく、実際は『全てを失った』わけではないのでして。


やっぱり”挑戦し続けたからこそ失敗を重ねた人間“の手元には、有形無形問わず、多くが残るわけですよ。