2021/07/26 サイダーのように言葉が湧き上がる
アニメ映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』を観てきました。花火と祭りが出てくるだけで夏らしさを感じさせてくれるなんて、ホントにコロナ(もしくはオリンピック)が憎い…実際、この映画も1年前に公開予定だったわけですし(コロナ禍で延期した)
俳句好きでコミュ障のイケメン。出っ歯がコンプレックスの美少女。そんな二人のボーイミーツガール映画。初々しいです。俳句少年のあだ名がチェリーってことも含めて初々しいです。(ヒロインのあだ名はスマイル)
「言葉は口に出さなくたっていいんだ」というコミュ障ボーイが勇気を出して想いを言葉にするなんて素敵じゃないですか。ヘッドホンを常時つけてて「心を閉ざしてます」アピールもクッソ古臭いけどいいじゃないですか。
「ベタだけど丁寧に作ってるなぁ~」って感じてしまうのは、いま大ヒット中の『竜とそばかすの姫』の脚本が雑すぎるからなのですよ。キャラクターが不可解な行動をせず、脚本に破綻も無いってことがどれだけ素晴らしいことか。話は地味だけど。
何より、イマドキ10代のSNSとの距離感がとてもリアルで、嘘くささが無い。細田守監督は『竜とそばかすの姫』のパンフレットで
『デジモン~』から『サマー~』と、ずっとネットを肯定的に描いてきた世界で唯一の監督だと自分で思っています(笑)
なんて答えてましたけど、嘘つくんじゃねーよ。安全地帯から匿名で石を投げるやつらに辟易してるから、『そばかす』ではアバター(匿名)と身バレにこだわってたんだろ。すずちゃんは細田守自身だろ。
対して、『サイダー~』のヒロインのスマイルちゃんは出っ歯というコンプレックスを抱えつつも、マスクつけて顔出ししてライブ配信してますからね。身バレなんてクソくらえなんですよ。何なら裏垢でエロライブチャットして投げ銭で稼ぎまくってるかもしれないし。マスクつけてたら尚更エロマンガっぽい展開で良いし(年頃の三姉妹が1部屋で一緒に過ごしてるあの家ではそれはないだろうけど)。
「ライブ配信程度で”イマドキっぽい”とか思う時点でオッサンだろ」って言われりゃそれまでですけど、顔出ししてる時点で、『そばかす』よりはよっぽど”らしい感じ”がしましたよ。
『君の名は。』から売れ線映画の定番要素となりつつある田舎(地方都市)の描写ですけど、「何をするにも、まずはショッピングモール」ってのはけっこう新鮮でした。「ロメロの『ゾンビ』やん」とか思いましたけど、アタクシも地元は何も無いから、学生時代はモールによく行ってましたし、田園風景を美しく描く最近のアニメには無いリアルを感じましたよ。 実際、数年前にアニメリメイク版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の聖地巡礼で旭市飯岡町に行きましたけど、商店街は土日でもシャッターが下りてましたし、灯台の近くのホテルは廃墟で、もう寂寥感たっぷりでしたよ。「そりゃみんなパチンコ屋かジャスコに行くよね」っていう。
キラキラした美しい自然を描くでもなく、都会への憧れを描くでもなく、村八分的で陰湿な人間関係を描くでもなく、否定も肯定もせず今の地方都市を描くって、地味ながら新しいことやってますよこの映画。しかもこれ、上述しましたけど、1年前に完成してたわけですからね。
そういう意味ではこれ、最先端のアニメ映画じゃないでしょうか。絶賛爆死中の本作ですが、ご覧になってはいかがでしょうか。