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2021/7/29 『17歳の瞳に映る世界』

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この2人がトニカクカワイイ

『17歳の瞳に映る世界』を先日観てきました。上映館がメッチャ少ないので、多くの人がアマゾンプライムビデオやNetflixでの配信を待つでしょうけど、可能な限り劇場で観たほうがいいです。予告編をYouTubeで観て映画好きの嗅覚が疼いたわけですけど、自分の嗅覚は間違ってなかったです。

 


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17歳の少女オータムは病院で自分が妊娠していることを知る。中絶を望むが、彼女の住んでいる州では、母親の同意なしには中絶手術を受けられない。母親には話したくない。オータムはネットで自分でできる中絶方法を検索して試すも、うまくいかない。

 

オータムの身体の異変に気付いたのは、彼女と同じ職場でバイトをしている、いとこのスカイラー。スカイラーは職場の売上金をくすねて、オータムと一緒にニューヨークへと向かう。親の同意なしに中絶手術を受けられる病院を探すために…。

 

 

スカイラー「(自分が)男だったらと思う?」

オータム 「いつも(思ってるよ)。」

 

 

予告編の冒頭で流れるこのシーン。自分の体のことなのに、思い通りにできない歯がゆさ。キリスト教徒の多いアメリカでは、中絶を是としない思想は根強く、州によっては実質的に中絶を禁止としている法律もある。#MeToo運動や、女性の抑圧と解放を描いたハリウッド映画は最近は多く、今作もまたその一つである。

 

何せこの映画ではオータムが妊娠した経緯どころか、父親の素性すら描かれない。出てくる男はことごとくクズばかりで、だれが父親であったとしても、オータムにとっては妊娠は不幸でしかない。彼女は被害者である。

 

お腹の中の赤ちゃんは、彼女にとっては不快な”異物”なのだ。汚らしい肉塊なのだ。何より許せないのは、自分の体の問題でありながら、自分の力で解決できないことだ。

 

この、『身体的な自由の無さ』ってのは、男にとっては一生分からない問題だとは思う。国によっては、レイプされて妊娠したとしても、中絶を許されないことがあるのだ。被害を受けてもどうにもできない、人権侵害の問題である。

 

この映画を観て思ったのは、去年に公開されたアメリカ映画『スワロウ』だった。


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金持ちの家に嫁いだ美貌の女性、ハンター。経済的には何不自由ないけれど、彼女はかごの中の小鳥だ。夫は世間体や仕事優先で本当に彼女を愛しているか疑わしい。やがてハンターは衝動的にビー玉や画鋲などを飲み込む異食症を患ってしまう。 

 

中盤で明らかになるのは、ハンターが、母親がレイプされたことによって生まれたということ。母親は熱心な宗教家で、たとえレイプであっても堕胎を許さなかった。自分は穢れた出自であり、疎まれていると感じるからこそ、自分に自信が持てない。 

 

最後にハンターは、自分の人生を自由に生きるため、レイプ犯と対峙し、そして身ごもった胎児を中絶する。

 

異食症という奇異な症状は映画の見どころではあるが、それ以上にハンターの自立と自由を描いた作品である。彼女自身も最初は妊娠を喜んでいたが、夫が彼女に対してなんら愛情を抱いていないと知って失望する。妊娠は福音ではなく、胎児は忌むべき”異物”なのだ。

 

 

結婚と妊娠と出産は、必ずしも幸せなことではない。自由が何よりも尊い今の世界では、 女性だって自由のために独身を選んだっていいのだ。それは尊重されるべきだと思う。

中絶は決して倫理的には”良い”とは言えない。殺人に等しい行為だからだ。でも、女性が自身の幸福のために、自由のために、幸せのために、命を犠牲にすることを選択できる社会でありたいとも思う。

 

『17歳の瞳に映る世界』はセリフが極端に少なく、そして静かだ。でも彼女たちの辛さや痛み、怒りが十分に映像から伝わってくる。そして彼女たちは美しい。どこを切り取っても絵になる美しさ。そういう意味では、不謹慎な感想だけれど”目の保養になる美少女映画”でもある。ぜひ観ていただきたいと思います。

 

最後に、やっぱり望まない妊娠はするに越したことはないです。正しい性知識を身に着けるために、性をもっとオープンにカジュアルに語ってくれる大人が必要です。そして、いつでも相談できる大人がいることを社会が認知するべきです。日本では性教育YouTuberのシオリーヌさんが活躍していますので、彼女のチャンネルを通じて、男性も女性も、望まない妊娠のための第一歩を踏み出すのがよろしいかと。


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