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9割は映画、たまにアニメや本の感想。

2019/10/14/『空の青さを知る人よ』

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2006年に映画『日本沈没』のリメイク版が公開されました。スペクタクルエンタメ大作であり、同時に災害シミュレーション映画としてよく出来ていたと思います。


2017年に“もしも電気が使えなくなったら?”というシミュレーション映画『サバイバルファミリー』が公開されました。コメディ映画ですが、なかなかどうして後半からは笑えないシーン連発で背筋が寒くなりました。


シミュレーション映画は平時においては「いや、さすがにフィクションだよね」という感想とともに消費されますが、いざ“似たような出来事”が現実に起こると「不謹慎だ」と言わんばかりに地上波で放送されなくなってしまいます。まぁどうしてもクレームが出るので仕方ないのですが。


とはいえ、フィクションはいつだって現実を生きるための知恵を与えてくれるものです。『ジョーカー』を観て個人が絶望し凶行を起こすメカニズムを理解したり、『機動警察パトレイバー2』を観て首都圏でのテロを想定すれば、生存本能が研ぎ澄まされると思います。
「もしもそうなったら」と、常に意識しましょう。


ってまぁアタクシは台風のなか仕事してましたけどね。さすがにこればっかりは神に祈ることしかできなかったぜハッハッハ!

 

 

まぁともかく…

 

 

アニメ映画『空の青さを知る人よ』を観てきました。『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』に続く秩父3部作でして、今作がダントツに良かったです。不覚にも泣いちゃいましたよ。

以下、予告編↓

https://youtu.be/Px1htzPeYCc


まぁ正直、鑑賞前はちょっと地雷臭がして不安でしたけどね。『あのはな』は秩父聖地巡礼するほどハマりましたけど、準ヒロインのあだ名が“あ○る”とか女装ゆきあつ疾走シーンとか理解に苦しむ表現は多々ありましたし、『ここさけ』もタイトルに反してシャウトも盛り上がりも欠ける後半のミュージカルに辟易しましたし。


でも今回は東宝配給、目指せ‼︎「ポスト君の名は。」と言わんばかりにプロデューサーが川村元気でして、かなり一般向けにクセのない作風に調整されています。同時に『君の名は。』感もけっこう強いです。新海誠が1ミリも関わっていないのに、プロデューサーの力ってスゴいですねぇ〜。

 


で、今作の何がオレの琴線に触れたかって、「ここから出たい。でもその勇気がない」って踠いてるヒロインあおいちゃんの焦燥感なんですよ。すごく共感できる。


「わたしたちは巨大な牢獄に収容されてんの」

と、秩父で暮らす自分の境遇に閉塞感を覚える高校生のあおい。


就職も大学受験も考えず、将来は「上京してバンドで成功する」と言ってあおいは毎日ベースを掻き鳴らしている。でも本当に故郷を捨てて東京に行きたいのかと言えば、躊躇しているのがよく分かる。ホントは一人で出ていく勇気が無いのだ。


田舎だけどそこそこ満たされている。ちょっと足を伸ばせば東京にだって遊びに行ける。でもこの場所で一生を終えるのかと言われれば自信がない。でも一人で出ていく勇気が無い…。


東京ではなく、関東の片田舎に住んでいる(住んでいた)人間なら、何となく共感するんじゃないでしょうか。
地方とはまた違う居心地の悪さがあると思うんですよ。“東京に近い場所”に住んでるっていうことに。


かくいうオレ自身も生まれも育ちも神奈川で、車が無いと不便な土地に長いこと住んでました。何せ新幹線も走ってるし飛行場もあるし高速道路も走っているのに一つも利用できませんからね!駅まで自転車で20分だったし。


「こんな場所イヤだ!」とか思いつつも、ヘタレだったので就職するまで実家暮らしでした。親元を離れて1人でやっていく勇気が無かったのです。
「外の世界を知りたい」と思いつつ東京の大学に進学しましたが、毎日往復3時間かけて実家から通ってました。


英語を生かした仕事をしたかったのでアメリカ留学が目標でしたが、単独で留学する度胸が無かったアタクシは大学のカリキュラムの一環で留学しました。
要するに自分1人じゃ何にもできなかったのです。


不便だけど何もないわけじゃない。中途半端に満たされているから“ここにいてもいいや”と思う。でもずっとここで暮らす自分を想像できない。でも出ていく勇気もない…。


そんな堂々巡りをかつて繰り返していたアタクシでしたので、まぁこの映画のヒロインには共感しましたよ。
今はさすがに踠いていないですけど。相変わらず上京もせず神奈川県民ですけど。


この場所で生きていくことを選んだ姉のあかね、この場所を出て夢を叶えたのに成功できなかった慎之介、未来を信じていた13年前の“もうひとりの慎之介”、彼らの想いに触れ、あおいは何を思うのか…。


将来に悩む10代にとって今作は青春映画ですし、今の自分を肯定できない30代にとってはグサグサ刺さる映画でしょう。
そのどちらでない人も、観賞後は優しい気持ちになれるのではないでしょうか。


公開早々に台風が来て客入りに苦戦していますが、是非とも観ていただきたい作品です。

 

 

小説 空の青さを知る人よ (角川文庫)

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