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9割は映画、たまにアニメや本の感想。

20171028 『ブレードランナー2049』

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ふたつでもうじゅうぶんですよ‼︎

 

SF映画ブレードランナー2049』を観てきました。


誰かこの企画を止める人はいなかったのでしょうか。
伝説のカルト映画『ブレードランナー』の正統な続編。

 

実に35年ぶりの続編…当然ながら、そんな大昔の作品である初代ブレランなんて知らんわボケェ!という方のために、今作から見てもある程度わかる内容になっていますし、同時にそのストーリーの語り口は、前作よりも原作小説により近いものとなっています。


要するに35年ぶりの続編であり、同時にリメイクであり、そしてリブートでもあるのです。

 

とはいえ、どれだけオリジナルをこねくり回そうとも、カルト映画は所詮カルト映画なのであって、即ち万人ウケなどしないのです。

 

その証拠に、前作とほぼ『同じテンポ』で語られる、上映時間2時間43分の物語。

 

この時点でオリジナルを知るファン以外には『クソ映画』確定ですし、何も知らずに見に来た一般人は寝るか退屈するか膀胱炎になるかの3択でしょう。


「『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリングが出てるし〜」という理由で観に来た女性客を完膚無きまで失望させること請け合いです。


ま、そんなわけで初めから前作のファン以外には受けない映画であって、コケることを宿命づけられた映画なのです。
そんな企画がなぜ通ったのか…リドリーお前また続編やる気だな!

 

ところで超傑作コミックである吉田秋生先生の『BANANA FISH』が来年アニメ化決定らしいですが↓

http://natalie.mu/comic/news/253608

バナナフィッシュにせよブレランにせよ、四半世紀以上も前の『名作』を今なお作り直す意義はあるのでしょうか。


先に言っておきますと、今作に関しては間違いなく作る意義はありました。ただ、くどいようですがヒットはしないでしょう。実際にアメリカではコケてますし。

 

“われわれはみんなが古いものに惹きつけられるのを望まない。新しいものを好きになってほしい”

 

80年前に書かれたディストピア小説すばらしい新世界』の一節です。

 

この物語とは違い、我々はまだ古いものに価値を見出しているのですが、世のクリエイターたちはそれを今の技術で『新たに語り直す』ことを必要としているのでしょう。


名作なのは間違いない。でも、古いままでは受け入れられない。


猿の惑星がいかに凄い映画だとしても、50年前のオリジナル版を今の若い人たちは観ないでしょう。
(余談ですが、『すばらしい新世界』もまた、ここ数年で2度も新訳版が出て、今なお熱く『語り直され』ている作品です。ぜひ読みましょう。)

 

 

さて、今作が続編である以上、前作にあたる『ブレードランナー』という作品に触れる必要があるのですが、世界中に熱狂的なファンがいる一方で、一般の人が観ても全く面白く無いです。


大事なことなのでもっかい言いますけど、マジで初見は面白くないです。

 

レンタルビデオによる初見時は中学生の頃でしたが、『スターウォーズ』みたいなSFアクション超大作をイメージしていたオレは、酸性雨の降る陰鬱で退廃的な未来都市、少な過ぎるアクション、意味不明なストーリーに退屈し、寝オチしました。


そして驚くべきことに、本作は『通常版』、『完全版』、『ディレクターズカット版』、『ファイナルカット版』と、何と4つもバージョンがあるという衝撃(ワークプリント版は除く)

 

未見の方は「どれを見りゃいいんじゃい!!」と発狂必至の上、どれを見ても面白くないという八方塞がり。
ますますブレランのハードルが…。

 

しかしながら一般層には受けないまでも、ビジュアル面において後のSF作品に多大な影響を与えたのは間違いないわけで、降り止まない雨の下、アジア系の人種と非英語圏の言葉が混在する汚らしい灰色の未来世界なんかは押井守版『攻殻機動隊』や『マトリックス』がモロにパクってますね。


そんなわけで、退屈こそすれど、視覚的なインパクトを今日でも十分に与えるという点では、今でも初代『ブレードランナー』は未来を感じさせる作品です。


さて、先程からつまらないつまらないと初代ブレランをディスっているわけですが、じゃあ難解な作品かと言われるとそうでもなく、テーマもシンプルで通俗的です。


寿命がたった四年しかないレプリカント(いわゆるアンドロイド)が、もっと生きたいと切望する。
自分を人間だと信じていたレプリカントが、自分の記憶は偽物であると告げられ、涙を流す。


泣き、笑い、命を燃やす『精巧なレプリカ(贋物)』を通じて、
『人間とは何か 生命とは何か』を問うのが前作でした。


そしてこの作品の原作である『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(無数のパロディを生んだタイトルです)では、もっと踏み込んで

『本物とは何か ニセモノとは何か』

をテーマにしていました。


金持ちにしか手に入らない、高価な『本物の動物』を買うことを夢見て、賞金稼ぎとして人間そっくりのレプリカントを次々と殺していく主人公。

 

『本物』に執着するあまり、両手を血に染め失われていく人間性。人間同様に愛を求めるレプリカント。本当は自分もレプリカントなのではないかという疑問と錯覚…

 

今作『ブレードランナー2049 』では、この原作のテーマである『本物/ニセモノの曖昧な境界線』を色濃く扱っており、ストーリーこそ違えど、より原作のテイストを映像として味わうことができます。


そういう意味では前作からの正統進化が窺えますし、そして前作の世界観は踏襲しつつ、最新のCG技術を駆使して、単なる”レトロフューチャー”に留まらない『新しい未来』を見せてくれます。


35年の時を経て、今なおこのブレードランナーというコンテンツは『語るに値する』ということを今作は教えてくれました。
そういう意味でこの続編は壮大で素晴らしい映画であることは間違いないです。

 

とはいえ…

 

いかんせんクソ長い!160分は長過ぎです!35年分の想いが制作側にあったのは充分伝わっていますが、流石に詰め込み過ぎかと。

 

傑作だとは思いますが長過ぎてリピートする気になれません。
そんなわけで、やはりこの『ブレードランナーというコンテンツ』は敷居が高いと言わざるを得ません。
試される映画と言ってもよろしいかと。


前作を予習して、その世界観に取り憑かれた方はぜひ今作をIMAXでご鑑賞ください。そして膀胱炎は覚悟してください。

 

余談ですが、今作公開と同時に町山智浩先生の
ブレードランナーの未来世紀』が12年ぶりに文庫版で再リリースされます。

 

前作『ブレードランナー』の解説を含む、読み物としても非常に面白い傑作映画評論です。未読の方はこの機会にぜひ。

 

 

〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀 (新潮文庫)

〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀 (新潮文庫)

  • 作者:町山 智浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/10/28
  • メディア: 文庫