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9割は映画、たまにアニメや本の感想。

2021/07/17 『竜とそばかすの姫』


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細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』を観てきました。素直に面白かったです。突っ込みドコロ満載のお話でしたけど。 

 

予告編でゾワッと鳥肌が立ち、YouTubeで配信されているmillennium paradeの『U』(映画の挿入曲)を聴いて、 

 

「こりゃ音質のいい109シネマズのIMAXで観るか、チネチッタ川崎のLIVE ZOUNDで観るしかない。」 

 

と思ったわけで、近所の109シネマズで予約しました。割と面白かったので、次はチネチッタで2回目を鑑賞しようと思います。 


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5chの作品スレでは突っ込みドコロ満載のストーリー展開について活気づいてましたけど、まぁホントに脚本は酷い出来でしたよえぇ。オレ自身も前作『未来のミライ』の意味不明なストーリー展開に閉口してましたから、ハナから細田監督の脚本に期待してはいませんでしたよ。

 

でも上記の通り、メインは音楽なので、ストーリーの良し悪しよりも曲を聴くために観に行くのが正解でしょう。それだけでも”夏休みの娯楽大作映画”として、 十分に満足できる作品に仕上がっていると思います。

 

まぁでも…脚本のひどさを看過できない人はやっぱりいますよね。例えば、50億人がアクセスする仮想世界『U(ユー)』に関しては、作品の舞台でありながら大した説明がされません。50億もアカウントがあるってことは、映画『レディ・プレイヤー・ワン』の仮想世界『オアシス』のように、大半の人々が仮想世界に常時アクセスし、生活していてもおかしくないレベルなんですが、一部のアーティストがライブ活動をしている以外は目立った経済活動は描写されず、何がそんなに50億の人々を魅了するのか、よく分かりません。

 

まぁぶっちゃけ、『みんなが毎日使う、インフラとしてのインターネット』を映画的におもしろおかしく視覚化しただけなんですよね。

細田守監督作品の中では評価が高い『サマーウォーズ』のようなビジュアルを作品に取り込んで、『未来のミライ』で失った評判を取り戻したかったとしか思えませんでした。

 

その仮想世界で陰キャの主人公がいきなりスターになっちゃう展開も、リアリティが無さすぎます。

 

音楽が大好きだった少女すず。彼女は幼い頃に事故で母を亡くし、そのトラウマで人前では歌えなくなってしまっていた。彼女は友達の紹介で仮想世界『U』にアカウント登録するわけですが、そこで歌ったとたん、フォロワー数は天文学的数字に。彼女のハンドルネームは『ベル(すず=鈴=Bell)』。

 

ベルがいきなり米津玄師超えのカリスマバーチャルシンガーになるという唐突な展開に唖然とするしかありません。一応、すずの友達であるヒロちゃんのプロデュース力の賜物であるという説明はあるものの、普通に映画を観ている限りでは、ホントに1曲歌っただけでいきなり超有名になったという印象しかありません。描写がヘタすぎだろ。

 

プロデューサーのヒロちゃんの考えもよく分からないというか、せっかく『U』で超有名になれたのに、稼いだ分はすべて寄付に回すと言いだします。何のためにプロデュースしてんだこの子は。ボランティアなのか。まぁ片田舎の女子高生がいきなり金持ちになってご近所に一気に知れ渡って有名人になっちゃうという展開にしたくないからこんな不自然なことを言うわけなんですけど、それにしたって不自然すぎだろ。

 

この他にも突っ込みドコロは挙げればキリが無いのですが、椅子から転げ落ちそうなほど脱力したのが、『U』を騒がせる謎の存在である”竜”が、父親から虐待を受けている東京在住の少年だったということです。

 

『U』の世界で耳目を集めるベルと竜は、ふたりとも日本人でしたというオチ…50億人が集う仮想世界を舞台にしておきながら、日本国内というごくごく狭い世界に物語が収まってしまった時点で、オレは相当ガックリしました。

ホントに『U』が”『美女と野獣ごっこをするための舞台装置でしかなかった”という事実。パロディというよりモロパクと言える謎のお城での二人のミュージカルシーンが中盤で展開されますけど、これだけやりたいなら『U』はそこまでスケールがデカくある必要はなかった。

しかもベルと竜は、最終的にはリアル世界で特に恋に落ちるでも無く、すずは少年を救ったあと、さっさと地元に帰っていくという結末。

 

えー、なんだよそれ。ラブラブしてハッピーエンドじゃないのかよ。恋愛も物語のキーになると思っていたから、最初は「竜の正体って、ひょっとしてすずが好意を寄せている忍くん⁉」とか思ってましたけど、オチを知ってから振り返ってみると、忍くんは竜の正体をミスリードさせるための存在としてしか機能してないし、竜は、細田監督が『美女と野獣』のパロディをやりたいがためのキャラクターとしてしか機能していない。竜がリアル世界で虐待を受けているという重い設定も、作中の重要な要素とは思えなかった。

 

いやまぁ、虐待により世界や人生に絶望している竜をすずが救うことで、すずの成長を描きたかったんだとは思いますけど、作中ではどうしても蛇足と言うか、直前の『すずがアバターとしてのベルを捨てて、自分をさらけ出して歌うシーン」で十分だったと思うんですよ。陰キャが勇気を出して一歩を踏み出すあのシーンはクライマックスにふさわしく、そこが物語のピークだったんですよ。オレも心底感動しましたし。だからあの後に少年を救いに東京に行く展開は蛇足だと思いました。「えっ、まだ続くの?」って。

 

まぁそんなわけで、多くの意味ありげな要素ひとつひとつが、ただ単に話を進めるための小道具としてしか扱われず、そのために物語全体が何度も観たいと思わせるほどの奥深さを生まない。ただ、演出はそれなりに冴えていて、息を吞むシーンは多く、余韻を残す作品にはなっていると思う。

新海誠の方が演出が上手いとは思うけど。

 

お粗末なストーリー展開ゆえに、5chで挙がっている感想としては、「細田に脚本を書かせるな」というのが非常に多いですけど、ちょっとそれには同意できない。

 

庵野秀明宮崎駿押井守、最近では新海誠など、巨匠扱いされているアニメ監督は基本的に自分で脚本も書いている。”ポスト宮崎駿”として持て囃されている細田監督は、何が何でも自分で脚本を書くべきだと思う。

 

それに何より、クリエイターなら他人の書いた話なんて監督したくないのが本音じゃないですかね?そりゃ巨額の制作費をつぎ込んだハリウッド大作映画は、プロの脚本家が数人で何度も何度も書き直して話を練り上げていきますけど、ジョージ・ルーカスジェームズ・キャメロン黒澤明など、かつては名監督の中には、自分で脚本を書く人も少なくなかった。自分のビジョンを100パーセント妥協無く見せたいってのは、監督としては必要な資質だとは思いますよ。その結果、ヘンな作品やクソ駄作が生まれるのもまた事実ですけど。

 

お粗末な脚本は、細田監督にとっては『個性』なんですよ。クリストファー・ノーラン監督の『TENET』だって、冷静に観たらけっこう雑な内容ですし。コロナ禍とは言え、世間にウケなかったのも頷けます。

 

僕ら鑑賞者はなるべく損をしたくないから”無難な映画”ばかりを求めてしまいますけど、配信サービスの普及で湯水の如く映画を家で観られる今、『ちょっと変な映画』にも耐性をつけておきましょう。