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9割は映画、たまにアニメや本の感想。

2019/12/12『ゾンビ日本初公開復元版』

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「怒りそうになったら、おっぱいのことを考えるといいよ。そうすると心がたいへん平和になるんだ。」

アマプラで最近配信された『ペンギン・ハイウェイ』のセリフに感心しましたよ。エロは平和をもたらすっていう。


伝説のAV監督…村西とおる監督の激動の人生を追った『全裸監督 村西とおる伝』をこないだ読了したのですけど、凄まじくエネルギッシュで破天荒なオジサマでして度肝を抜かれました。前科7犯、借金50億円…御年71歳にして、現在はAVの中国進出を目論んでいるというからスケールでかいです。やはりエロへの飽くなき執念と生命力は直結しているのですね。


700ページくらいの超ボリュームなので、活字が苦手な方や忙しい方はNetflixのドラマ『全裸監督』を観るか、ただいま公開中の『M/村西とおる 狂熱の日々 完全版』を観に行くといいです。

 

 

全裸監督 村西とおる伝

全裸監督 村西とおる伝

 

 


まぁともかく…

 


映画『ゾンビ日本初公開復元版』を先日、川崎チネチッタで観てきました。
40年前に独自の編集加工をされて日本初公開された幻のバージョンを”再現”したものです。


熱狂的なゾンビファンではないですが、幾度か本作を鑑賞した身としては、

「仕方ない、付き合ってやるか」

とばかりに重い腰を上げて劇場へと赴いたのです。

 

 


ジョージ・A・ロメロ監督が放った今作『ゾンビ』…原題『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、現在のゾンビ映画の始祖とも呼ぶべき存在であり、万人が思い浮かべるゾンビ像の基本を作り出した記念碑的作品なのです。


見た目は腐乱死体そのもので呻き声を上げながらさまよう。
人間の肉を求めて両手を伸ばし、ゆっくり歩く。
襲われ、噛みつかれた人間もまたゾンビになる。


バイオハザード』や『ウォーキングデッド』、その他数多くの映画、アニメ、マンガ、ゲームに出てくるゾンビ像は基本的にロメロの『ゾンビ』をモデルにしています。ゆえにゾンビを語るなら原点たるロメロの『ゾンビ』を観ずに語ることはできないのです。サメ映画で言う『ジョーズ』みたいなものですね。
あ、サメ映画というジャンルは極力近づかない方がいいですよ、マニアの方以外は↓

 

strawdog48.hatenablog.com

 


で、なぜわざわざ40年前のバージョンを求めて1900円という大して安くもない木戸銭を払ったのか…好事家たちの”お祭り”に参加したかったというのもありますが、この『ゾンビ』という映画にはもともと複数のバージョンがあると言うのがその理由です。


ロメロのゾンビには、主に3つのバージョンがあります。アメリカで公開された北米版と、音楽担当であり映画監督でもあるダリオ・アルジェントが編集したダリオ・アルジェント版、そして映画祭で公開されたディレクターズカット版があります。


北米版はロメロ監督自身がアメリカ公開に合わせて編集したバージョンであり、暗い味付けが特徴です。一方、ダリオ・アルジェント版はロック調の音楽がゾンビとの戦闘シーンで頻繁に用いられており、映画の尺も北米版より短く、テンポよく編集されています。


そしてディレクターズカット版ですが、一般公開前に映画祭向けに編集したバージョンであり、最も尺が長いです。ファンからすれば「未公開シーン」が多いだけに有り難みがありますが、正直言って40年前の映画のテンポなので鑑賞中にダレます。


他にも非公式に編集されたロングバージョンも存在するらしいですが、これだけ多くのバージョンが存在するのは、それだけ世界中に熱狂的なファンがいるという証左でもあるのです。


同様の映画で『ブレードランナー』というSF映画がありまして、こちらは『ワークプリント版』『通常版』『完全版』『ディレクターズカット版』『ファイナルカット版』と5つもバージョンがありまして、もはや何がなんだか…。
ちなみにどのバージョンを観ても、大して面白くn(以下略)↓

 

 

strawdog48.hatenablog.com

 

今回新たに上映される『復元版』は、本編には存在しない小惑星の爆発シーン、それによって生じた光線の影響でゾンビが発生したという“日本独自の”テロップが冒頭に追加されています。さらにモノクロ処理&ストップモーションによる残虐シーンの修正、そして40年前当時を再現した日本語字幕が画面の右側に展開されます。時代を感じさせますね。


「…ってか、残虐シーンの修正ってソレ、“不完全版”じゃね?そんなの観てどうすんのさ?」


SNSで散見される意見ですが、ごもっともでしょう。DVDなりネット配信で『ゾンビ』を観れば、どのバージョンでも無修正で残虐シーンが拝めるのですから、わざわざ1900円を払って“不完全版”を劇場で観るなんて金と時間の無駄だと言われても反論できないでしょう。


もっと言えば日本の配給会社が勝手にゾンビ発生の理由をつけるなんて“不完全版”どころか“改悪版”と言ってもいいです。
芸術を重んじる良識人なら、作品に対する冒涜と捉えられても仕方ないです。


しかし、商業映画は芸術である以前に“商品”なのです。今なら公開前からネットやSNSで作品の舞台裏やメイキング、キャストのコメントが紹介され、作品の世界観も裏も表も熟知した上で劇場に足を運ぶことができますけど、ネットがない40年前は、そんな“品定め”はできなかったのです。なるべく観客にお金を払って満足していただきたい…そう思った結果の当時の配給会社の判断で作られたのが、この日本公開版なのです。


まぁほんの20年前まで映画の予告編なんかも話を“盛る”ために「セリフと字幕が違う」なんてことはよくありました。
SNSの普及で全国民がネット警察になった昨今とは違い、昔は映画を“売る”ための自由度は高かったのです。今やったら炎上モノですよマジで。


ただ、『ゾンビ』のような無数にバージョンのある作品が特異なように見えるだけで、我々自身は一つの映画作品を複数のバージョンで日常的に観ていると思います。


例えばテレビ放映版なんかは劇場公開版をCM込みで2時間に編集されています。正味90分の尺の短さです。でも無駄なシーンが削がれてサクサク観れたりします。


「テレビ版が面白くて劇場版を観たらテンポ悪かった」
なんてことはオレ自身、けっこうありました。


加えて、テレビ版なら吹替を担当している声優やセリフがテレ朝版やテレ東版、フジテレビ版など、テレビ局によっても変わるので、その違いに印象が一変することでしょう。


他にも字幕で観るならば、劇場版、ネット配信版、DVD版などで字幕も変わってきます。訳者と訳文の違いで全く新しい作品のように感じることでしょう。よく分からない方は海外の古典小説の新訳版などを買って読んでみてください。マジで全然違いますから。


オレが好き勝手に書いているブログとは違って、商業目的で作られた物語は必ず第三者による編集を強いられるものです。
その結果、作者の意図と違う不本意な作品が世に生み出される不幸もあるでしょう。ただ、同時にまた複数の解釈と見方を許すようにもなるのです。

 


今作『ゾンビ日本初公開復元版』を観て、「こういう『ゾンビ』もあるんだな」と、映画の見方を広げてみるのもアリかと思います。


ま、「1900円を払うほどじゃなかったな」ってのが率直な感想ですけど(オィ

 

 

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